高熱のおばあちゃんに「いつも通り」の食事?現場で考えた体調優先のケア


今日は体調が悪いから、ご飯はいらないよ。

食べないと体力も回復しないから、キツいままですよ。

いや、キツいから寝ておきたいんだよ。

…そしたら、少しお粥でも炊いておきますね。
「親が熱を出したけど、ご飯はどうすればいいの?」
在宅介護では、誰もが一度は迷うテーマです。
私は老人ホームで働く現役ナースです。
数年前、38度を超える熱が出たおばあちゃんをいつも通りホールに連れて行き、食事をすすめようとした看護師がいました。
その場で私が感じた違和感、そして「体調を優先すべき理由」をこの記事でお伝えします。
ご家族の介護で迷ったとき、少しでも参考になれば嬉しいです。
高熱時の対応で現場が迷う理由
施設介護は「日課優先」が基本
介護施設では「決まった時間に決まったことをする」という流れが大事にされます。
- 12時になったら全員で昼食開始
- 16時になったら順番にトイレ誘動
- 19時になったら自室に戻る …… など
限られたスタッフ数で安全を守るためには、日課を優先する必要がある場面も多いです。
特別な事情がない限り、日課に沿って1日が進みます。

現場の空気 「いつも通り」が最優先
- スタッフ間で「食事は全員そろってとるもの」という暗黙のルール
- 流れを崩すと「やるべきことをやっていない」と見られやすい
- 「例外」をつくると業務が回らなくなるという不安
このため、熱があっても「ホールに連れて行かなくて大丈夫?」という思考になりがちです。
私が感じた違和感
その日のおばあちゃんは、顔が赤く、呼吸も早い状態。
検温すると38.4℃。
「今日は食事よりも休養が必要では?」と私は強く感じました。
でも周囲のスタッフは「ホールで食べてもらわなくていいの?」という雰囲気…。
このズレこそが介護現場の課題です。
高齢者の発熱時に無理に食事をさせるリスク

医療者の立場から言えば、高熱時に食事をすすめることにはデメリットがあります。
誤嚥(ごえん)のリスク
発熱中は意識がぼんやりしやすく、飲み込みも弱くなります。
無理に食べるとむせ込みやすく、誤嚥性肺炎につながる危険性があります。
消化不良・体力消耗
体が熱と戦っているときに食事を取ると、消化に余分なエネルギーを使ってしまいます。
結果として回復が遅れ、体力がさらに消耗することもあります。
脱水への注意
熱で汗をかき、体内の水分はどんどん失われます。
このため、食事よりも 水分補給の方が優先度が高い場合が多いのです。
家族が陥りやすい誤解とその心理

「食べないと弱るから無理にでも食べさせたい」
介護をしているご家族からよく聞く内容に、
- 「食べさせないと体力が落ちるのでは?」
- 「ご飯を食べない=命に関わるのでは?」
というものがあります。
その気持ちはとても自然なものです。
ですが実際には、体調が悪いときに無理に食べることこそがリスクになる場合が多いのです。
「食べられない=何もできない」ではない
水分や栄養補助食品を少しずつ摂るだけでも、回復の助けになります。
「食事を食べさせないと…」というプレッシャーから、ご家族が疲れてしまうこともあります。
だからこそ、「食べないときがあってもいい」「その日の状態に合わせれば大丈夫」と考えてみてください。
私が実体験から学んだこと
今回の経験から私が痛感したのは、流れよりも体調を優先することです。
現場の学び
- 「いつも通り」ではなく「その日の状態」を見る
- 食べないと不安になるが、水分だけでも回復につながる
- スタッフ間で「今日は例外で休ませよう」とあたりまえに共有する勇気が必要
〜在宅介護で考えてほしいこと〜

あなたのご家族が熱を出したとき、
「流れを守ること」or「本人の体調を優先すること」
どちらを選びますか?
介護で役立つ工夫とおすすめアイテム
在宅介護でも「今日は食べられない…」という場面は必ず訪れます。
そんなときに役立つのが ゼリー飲料や栄養補助食品 です。
おすすめ理由
- 少量でカロリー・水分、栄養素を同時に補給
- 嚥下が弱い方でも摂りやすい
- 常温保存ができ、準備が簡単
私が現場で印象に残っているケースを紹介します。
【実例】栄養補助食品で元気を取り戻したおじいちゃん

80歳代後半のおじいちゃん。
体力が落ちていて、自分の部屋で寝たり起きたりの繰り返しの日々。自室から出るのは入浴の日だけでした。
食欲がなく、食事は少量しか入らない。ですが差し入れのお菓子やジュースはよく口にしていました。
そこで、ご家族に栄養補助食品(例:アイソカル、クリミール、メイバランスなどの介護食)のジュースやゼリーを依頼。
たくさん準備して下さり、おじいちゃんは連日それを飲んだり食べたりしました。
すると…
1週間ほどで、何ヶ月も自室で過ごしていたのが、ホールで食事を摂れるように!
さらに体操にも参加できるほど、元気を取り戻されました。
この経験から私は「本人が口にしやすい形で栄養を補うことの大切さ」を強く学びました。
栄養補助食品の種類比較

ドリンクタイプ
- ジュースのように飲めるので抵抗感が少ない
- 味のバリエーションが豊富(コーヒー・フルーツ味など)
- 食欲がないときでも摂取しやすい
- 水分補給と栄養補給を同時にできる
ゼリータイプ
- 嚥下が弱い方でも飲み込みやすい
- スプーンで少しずつ食べられる
- 水分補給と栄養補給を同時にできる
粉末タイプ
- 牛乳やおかゆに混ぜて使える
- 普段の食事にプラスできるので継続しやすい
- 味を変えずに栄養を強化できる
👉 在宅介護では、その人が好む形態を見つけることが一番のポイントです。
今回の体験から学べること
高熱時の介護チェックリスト
- 高熱時は「食事より休養・水分」を優先
- 無理に食べさせると誤嚥・消化不良のリスク大
- 食欲がないときはゼリー飲料・栄養補助で代替
- 介護の「流れ」より「本人の体調」を重視
その人のその時に合わせたケアを
「いつも通り」が必ずしも正解ではありません。
大切なのは 流れより体調を優先すること。
介護の現場にいると「決められた通りにやること」が正しいように思えます。
しかし本当に大切なのは「その人にとって今何が必要か」を見極めることです。
今回の体験が、同じように迷っているご家族の参考になれば幸いです。
