介護はがんばりすぎなくていい。自分をすり減らさないために大切なこと
介護は、ある日突然に始まるものだと思っていました。
でも実際には、小さな違和感の積み重ねの中に、その「始まり」は静かにありました。
父が、受診日を「知らなかった」と言った日。
私は胸の奥がすっと静かになるような感覚にもなりました。
ああ、やっぱりこうして始まるんだな。
驚きでも、いら立ちでもない。ただ、静かな覚悟のようなもの。
その日から私は、「娘としての私」と「支える側の私」を同時に生きるようになりました。

介護は「正しさ」より「続けられること」
介護は、正しい方法さえ知っていればできるものではありません。
人の生活は、私たちが思っているよりも複雑で、繊細です。
毎日同じように見えても、実は心や体の状態はゆっくり変化していく。
だから介護は、短距離走ではなく、持久走です。
「ちゃんとしなきゃ」「毎日がんばらなきゃ」
そう思えば思うほど、どこかで心がすり減ってしまいます。
現場でも、
「本当はゆっくり話を聞きたいのに」「できるならもっと丁寧に関わりたいのに」
そう思うほど、できない日が多い。
ナースコールが鳴り、次のケアが待っていて、時間はいつも足りない。
でも、その中で気づいたことがあります。
介護は完璧じゃなくていい。 続けられる形を見つけることが、一番大切と。
介護は、「今日できたか・できなかったか」で評価できるものではありません。
その時の体調、天気、気分、人間関係、仕事や家の状況…
いろんな要素が重なって、できる日とできない日が自然に生まれます。
でも、世の中の多くの介護者は、「できない日」に対して自分を責めがちです。
本当は、それが一番しんどさを大きくしてしまう。
「できない日があってもいい」と、自分で自分を許せるようになると、
介護はぐっと楽になります。
これは、現場で働いてきた私自身が、ようやく受け取れた考え方でした。

支える側がすり減らないことも「介護の一部」
支える側が元気でいることは、相手にとっても、安心につながります。
・1人で抱えないこと
・できない日は「できない」と認めること
・自分の時間を持つこと
それはわがままではなく、逃げでもなく、手抜きでもない。
介護を続けるための呼吸 です。
深呼吸ができなければ、誰も長くは走れません。
介護を続けていると、
「私だけががんばっている気がする」「誰にもわかってもらえない」
そう感じてしまう日が出てきます。
だけど、それはあなたが弱いからではなくて、
ちゃんと大切にしようとしているから生まれる感情です。
優しい人ほど、すり減りやすい。
だからこそ、あなた自身が元気でいられる形を選んでいいんです。
父と向き合う中で感じた「始まりの音」
父が受診日を忘れた日、私は「ああ、ついにきたな」とも思いました。
それは悲しみでもなく、冷たさでもなく、ただ、受け入れるしかない現実。
私は父を「好き」とか「嫌い」とか、そういう言葉では語れません。
近いけれど、遠い。
関わっているけれど、少しさめている。
でも不思議なことに、その距離のまま、ちゃんと関係は続いています。
介護は、「いつも優しくできる人」がするものではなくて、うまくできない日も含めて、
関わり続ける人がするものなんだと思います。
介護はどちらかが強く支える関係ではなくて、お互いが揺れながら続いていく
「関係」です。
優しくできない日も、話を聞けない日も、ため息しか出ない日もある。
でも、そのどれもが「だめ」ではなくて、ただ「その日の私」なんです。
私もまだ、ゆらゆらしながら親の介護初心者を続けています。
私は父に対して、立派に優しく寄り添えているわけではありません。
感情が追いつかない日もあります。ため息しか出ない日もあります。
でも、それでも関わりを手放さなかった時間が、私と父をつないできたのだと思います。
介護は「できるか・できないか」ではなく、「離れない」という小さな選択の積み重ね。
父を前にすると、娘としての私と、看護師としての私が、いつも少しだけずれることが
あります。
「優しくしたい自分」と「距離を置きたい自分」が同時に存在してしまう。
その揺れは、介護をしている人なら誰でも持っています。
揺れながら続けている時間そのものが、その人との関わりなんだと思います。


ときどき思い出してください
できる日は、できるだけでいい。
できない日は、できないままでもいい。
介護は「一緒に生きていく時間」だから。
あなたが今日、少し疲れていたとしても、
それはがんばっていないということではありません。
むしろ、ちゃんと向き合っている証拠です。
「できなかった日」や「距離を置いた日」も、介護の時間の一部です。
あなたのペースで大丈夫。
あなたも、あなたの親も、ひとりで背負わなくていい。
ここに、同じように揺れながら介護を続けている私がいます。
もし今、心が少し疲れていたら深呼吸をひとつ。
大丈夫。
あなたはちゃんと、やさしいまま生きています。

